【5年生】古典テクストと外部テクスト 中国思想をもとに現代を考える

ねらい

 漢文テクストを分析することから始め、そのテクストの内容とテクストの外部との関わりについて考察する。
基本的に、漢文の学習は句法や語句の知識の整理である。また読解にしても、古文・漢文のテクストから教訓を読み取る、作者の伝えたいことと読み取る、という授業が多くなる。これらの学習法は、効果的に知識を得られる反面、生徒の学習の方向性を限定してしまい、興味関心の幅を狭くすることにもなる。

 今回は、漢文テクストに対して、具体的な外部を探し、それらと漢文テキストとの関連性を考えた。ここでの外部とは、現実にある人間の価値観や、他の哲学者・思想家の考えなどさまざまである。

 外部資料を参照するにあたっては、インターネットや図書館の資料を用いた。プレゼンテーションは5人程度のグループで、ホワイトボードを用いた板書と口頭説明で行なった。

 この単元を通して、テクストの読み方、一つのテクストと他のテクストとの関係について考える力を養う。

 

概要

(1)「孔子」の通読

 本文を一通り読み通し、それぞれ書かれていることを確認した。また、漢字や語句の確認も行った上で、定期テスト・入学試験に必要な知識の確認をした。現代語訳を積極的に使い、内容の把握を優先した。「孔子」は中国思想の基本となるので、重点的に説明した。

 

(2)課題内容の説明

 プレゼンテーションの準備として個人毎に以下の課題を出した。この段階で、クラスを、孟子班、荀子班、老子班、荘子班、韓非子班の五つに分けた。

 

課題 p64~72の「孟子」・「荀子」・「老子」・「荘子」・「韓非子」から一つ選び、四百字以内で解釈を書きなさい。解釈とは「テクストの言わんとすること」である。解釈は読む人の数だけあるので、テクストを根拠としていればそれでよい。

 

解釈の例 醜いアヒルの子→人は見た目で判断してはいけない

     赤ずきん→人を簡単に信じてはならない

 

条件一 二段落構成とする

条件二 第一段落に選んだ文の要約を書く。第二段落はその内容を解釈を書く。

条件三 解釈を終えたら次の①②について考えておく。

    ①他の思想家との類似点

    ②現代の考え方に通じること

 

①の例 孟子の「人は生まれもって普遍的な他人をおもう心を持っている」は、プラトンの理想主義に近い。     

②の例 老子の「ものはもたないほうがいい」という考えは、現代の断捨離や、スマホ断食に通じる。

 

(3)グループディスカッション(2時間)

4~5人でグループを組み、(2)で作成した文をもとに、話し合う。この段階で、プレゼンテーションの構成も考え始める。

 

(4)発表会・ワークシート(振り返り)

グループごとに発表を行なった。発表の内容は、書き下し文の板書、解釈の説明、他の思想家や現代社会の価値観との関係の説明、とした。

発表ごとに、教員と生徒がコメント述べた。期末テストでは、漢文の問題を、孔子は必修、他を選択制にした。選択問題は、「孟子」・「荀子」・「老子」・「荘子」・「韓非子」の中から、二台選んで解く方式で出題した。

 

成果(ふりかえり)

 古典は、現代を知るてがかりになり、有用である。そのようなことを生徒たちが知るきっかけになったと思う。

一つ目の課題(解釈の作文)で、生徒個人ごとの読解力が確認できた。また、自分の解釈をもとにグループで話し、解釈の共通点や、ズレをもとに、客観的な解釈について考えることができた。

 あるテクストが外部とつながっているという考えに関しても、具体的な作業を通して理解が進んだのではないか。客観的に読み、解釈することが入学試験を初めとする問題で問われるのは事実だが、そこから具体的な事象に関係づける力は、面接や将来の仕事の中で重要である。

 また話し合いの中で、どのようにすれば聴き手に伝わるか考えることも学ぶことが多かったようだ。解釈から、具体的な外部のテクストに上手くつなげた班は、話し合いの段階から論理的に考えられていた。

 プレゼンテーションは高校二年生ということもあり、よい内容であった。聴き手もメモをとり、知識の整理につとめていた。これらの知識は現代文・現代社会・日本史・世界史・倫理・小論文などの各試験科目とも関係しており、漢文に限定された知識ではないと生徒に伝えておいた。

 本来であれば時間上、「孔子」とあと2つほどしか、授業で扱えないのだが、各自がそれぞれテクストを読むことで、すべての文章を扱うことが出来た。期末テストの前に、それぞれの思想家の小テストを配布したが、自分が扱った思想家の問題はもちろん、その生徒にとって印象に残った発表の思想家の問題もよくできていた。このような形をとれば、単位時間あたりに扱えるテクストの数が増えるので、少人数でのディスカッションが出来るように

なれば試してもよいだろう。

(由良祥穂)