【1年生】「ぬすびと面」を朗読しよう

ねらい

本校の中学1年生は、入学直後の合宿に始まり、授業中や各種行事(フィールドワーク、開橋祭、学年朝礼など)といった様々な場で「発表」「プレゼンテーション」を経験する。その様子を見ていると、当然ながら、「原稿をただ読むだけになっている」「抑揚、メリハリがない」「漢字の読みの勘違いや、語句に関する誤り(例:「なんとはなしに」を「なんと、はなし(話)に」と切ってしまう)がある」というような「読み方の課題」を多く見つけることとなる。

そこで、国語の授業内では、「はぁって言うゲーム」(幻冬舎)を用いて読み方・表現について触れたり、小グループでの音読(聞き合い)の機会を多く設けたりと、声を出して読むという時間を度々設けてきた。

そうした取り組みの一環として、授業内で扱った教材である吉橋通夫「ぬすびと面」の最終課題を「朗読」とした。この教材は、どのように読めばいいか(声に出せばいいか)が登場人物のセリフや地の文から解釈しやすく、また、リズミカルな部分から説明臭い部分まで文の進み方のバリエーションが多彩であるため、「本文を分析し、自分の『得意』を見つけて朗読・発表する」という点をねらいとした。

 

概要

(1)「ぬすびと面」通読

 本文を一通り読み通し、特に、主人公である「文吉」について、タイトルにもなっている「ぬすびと面」について、それぞれ書かれていることを確認していった。また、漢字や語句の確認も行った上で、定期テストとして「ぬすびと面」を出題した。なお、生徒には「定期テストの後で、この教材を扱った課題を実施する」と伝達した。

 

(2)課題内容通達

定期テスト後、以下のような朗読課題を出した。

・分割した本文を教員が提示(約6行ずつ、29分割)、その中から好きな部分一つを自分で選択して発表する(クラス内での重複も許可)。ただし、その部分を選んだ理由を明確にすること。

・ワークシートの「どうしてその部分を選んだのか」「工夫した部分」を事前に書いてくる(その他、「感想・振り返り」や「自分が気に入った(いいなと思った)朗読者」については、本番後に記入する)。

・授業内で、一度、ランダムに小グループを組んで第一次発表会(練習)をする。

・その後、クラス全体で第二次発表会(本番)をし、聞き手からのコメント(何を伝えたい朗読だったか)をもらう。

なお、上記「ねらい」の内容や、「声が大きい」「明るく、元気」という点での評価は行わない(抑揚をつけたり、間を取ったりして、「中学生らしい」読み方に挑戦しよう)、という説明も行った。

 

(3)第一次発表会(練習)

3~4人でグループを組み、授業時間の中で一度メンバーをシャッフルしながら、練習を行った。また、この時感じたことやもらったアドバイスを書き入れるためのワークシートを配布した。

生徒には、事前に「どこを読もうか悩んでいるなら、この時に周りからアドバイスをもらって決めてもいい」「この時に発表した部分がしっくり来ない、実際に人前で読んでみたら上手くいかなかった、という場合は、本番で全く別の部分を読んでもいい」と伝えた。

 

(4)第二次発表会(本番)・ワークシート(振り返り)

選んだ部分に関係なく、座席順に発表を行った。また、評価の関係で、教員が動画を撮影した(生徒には許可を取った)。

発表後、教員が総括を述べた(主に「ねらい」の再確認)。その後、締め切り日を設定し、ワークシートを提出してもらった。

 

成果(ふりかえり)

同学年を分け持っている教員から「グループではなく、個人の発表にするといいのではないか」「本文の好きな部分を選択させるといいのではないか」というアドバイスをもらい、このような形の課題となったが、結果として非常に面白い発表会になった。ある生徒はセリフの多い部分を情感たっぷりに読み、別の生徒は間の取り方を工夫しながら心情描写を、また別の生徒は一見平坦な地の文を抑揚で聞かせる……と、生徒ごとの「得意」が見える形になった。また、生徒も、どの部分を読もうか決めるにあたり、普段とは違った様子で文章と向き合っていた。

第一次発表会(練習)においては、生徒の聞く力や、アドバイスをする力(ことばを選ぶ力)も試された。特にアドバイスについては、グループ内のある生徒のアドバイスの仕方をまねてみたり、コメントを参考にしたりと、生徒たちにとって学ぶことが多かったようだ。

ただ、「国語の授業の外」へ、このような取り組みをどのようにつなげていくかは常に課題としてつきまとう。授業では見事なパフォーマンスをみせる生徒でも、その外での発表・プレゼンテーションになるとそれを発揮できない、つなげることができない、ということが多々ある。授業外を巻き込んだ、一貫した指導や確認が必要だと思われる。また、今回は中学1年生の授業であるが、学年によっては「恥じらい」「ウケ狙い」といった要素が出てくる可能性もあり、実行にはより工夫が求められることであろう(実際、「はぁって言うゲーム」を他学年の担当教員が行ったところ、扱いが難しかったとの話を聞いた)。

なお、今回は物語的文章を課題としたが、生徒たちの力がついてきたら、より解釈に幅が出るであろう演劇的な題材(戯曲や、演劇そのものなど)を扱う機会があってもいいかもしれない。

(横山文恵)