【1年生・理科1】My ばねを作ろう!

ねらい

小学校までの学びと中学校からの学びをつなぐことをねらいとしました。

入学したての生徒たちの実験ワークシートを採点していたとき、ある気づきがありました。

知識としてすでに知っていることや最初にたてた予想と、実際の実験結果から導き出せる結論を、区別せずに書いてしまうケースがよく見られることです。

言い換えれば、知識の確認テストで丸がもらえそうな答えを書くことと、得られた事実から自分が最終的に何をどう判断したかを報告することの違いが、よくわかっていないようだということです。

 

なぜそうなのかの仮説を立てました。

生徒たちは、「目の前の実験結果を解釈する。そこから考えられる妥当な結論を導く。」という思考の仕方に、まだ不慣れなのではないかという仮説です。

科学の疑問の解決に挑戦するとき、「こうなるはず」という思い込みにひっぱられてしまうのは、危険なことです。

十分な根拠に支えられていない、無理のある解釈をしてしまう恐れがあるからです。

そこで今回、生徒が自分の手でばねを作り、そのばねの性質を実験で測定してグラフを描き、レポートにまとめて提出する、という一連のプロジェクトを行いました。

 

概要

 (プロジェクトに入る前)

理科室の実験器具である、ニュートンばかりのばねを使った実験を行いました。

ニュートンばかりは、ばねが伸びきらないように、保護ケースに入れた状態で使う器具です。

この授業により、グラフの描きかたとフックの法則は、一度学習済みです。

 

1時間目:プロジェクトの準備

①プロジェクトの進め方やレポートの期限の情報を書いた冊子を配り、説明を行いました。

説明の概要

・全員が必ず取り組む必修課題は、自分のばね(以下、Myばね)を作って実験し、その性質をグラフで表し、レポートにまとめて提出することです。

・希望者向けのオプション課題は、加工条件の異なるばねを作って実験結果のグラフを比較することです。それぞれの条件がばねの性質にどのような影響を与えるのかを探究してみてください。(加工条件:巻き芯の太さ、ピアノ線の長さ、加熱の有無)

 

②ばねの作り方を教員が演示し、安全のための注意点を伝えました。

 

③必修課題について、各自で仮説を立て、実験方法の計画案を書いてもらいました。

 

2時間目~4時間目:実験

①教員に計画案を見せて、合格をもらった人から、Myばねを作り始めました。

 

②Myばねに加える力の大きさN(ニュートン)と伸びの関係を調べ、記録しました。

 

③必修課題が終わった人は、オプション課題にとりかかりました。

 

注)Myばねの成形とニュートンばかりでの測定は、ゴーグル・手袋着用で安全面に配慮しました。

 

5時間目

実験結果をレポートにまとめました。

 

放課後・家庭学習日

オプション課題に取り組みたい人は、放課後や家庭学習日に実験できました。

学年の半数くらいがオプション課題にも挑戦しました。

 

(補足)

強い力を加えたときに、ばねが伸びてフックの法則が成り立たなくなる現象は、中学の教科書には載っていません。

生徒が実験結果を解釈する助けにしてもらうために、参考文献を用意しておきました。

 

成果(ふりかえり)

課題の内容と、プロジェクトの効果のふりかえりを行います。 

・必修課題について

全員にクリアしてもらいたい課題のレベルは適切であったと考えます。多くの生徒が、Myばねの実験では、以前の授業のばね実験とは異なった結果が得られたことに気づいていました。0.5mmの太さのピアノ線を人の手で加工してできるばねのほとんどは、ニュートンばかりで加えられる0~5Nの力の範囲のどこかで、弾性限界を迎えてしまうからです。半数程度の生徒は「ばねが伸びた」「フックの法則が破れた」などの表現を使って、実験結果からの気づきを考察に反映させることができていました。残りの半数程度の生徒は、レポートの中で具体的な言葉で記述するには至らなかったものの、予想していた結果とは異なることに気づいている様子でした。よって、生徒たちは、想定とは異なる結果が得られた状況に気づき、それをどう解釈・説明するかを思考する経験をすることができた、と考えています。

・オプション課題について

興味関心のある人向けの選択課題を提示しておいたところ、多くの生徒が加工の条件の効果を調べる実験に挑戦しました。

さらに、創意工夫にあふれた実験を考えた生徒が出てきました。家庭にあるものを組み合わせ、5N以上の力を加えた場合についてのばねののびの様子を定量的に記録しました(図1)。このように生徒が自由に疑問を立てて実験できるプロジェクトにできた要因の1つは、今回の実験材料のピアノ線の材料費コストが低かったからだと考えています。探究型の学びを自由度の高いものにするための必要条件は、失敗しても何度でもやり直せる環境であることなのではないでしょうか。

・小学校の学びと中学校の学びの接続について

このプロジェクトは、小学校までの学びと中学校からの学びをつなぐことをねらいとして設計しました。このプロジェクトを行った約半年後に、小学校の理科の学びと中学校の理科の学びの違いについて、授業内で生徒に問いかけてみました。 「小学校の頃は結果をまとめて終わりだったが、中学校からはレポートなどで論述することが増えた」「小学校のころよりも実験が増えた」というコメントが得られました。生徒たちは、小学生の頃よりも深く思考し、多くの実験を通して理科を学ぶようになった、というふりかえりができたようです。

中学1年生の理科の授業を担当した教員の所感として、生徒たちが小学生時代にどのような学習経験をしてきたのかを、生徒との対話を通して整理していくことが重要だと感じました。担当している生徒層が、それまでの学習経験からどのような知識やスキルを得てきたのかを確認することで、授業の設計が調整できるからです。今回の場合、必修課題のレベル自体はおおむね適切でした。しかし、フルレポートの執筆を必修課題の提出形式として要求したのは、1年生の1学期には高度すぎて負荷が大きかったと反省しています。また、興味のあるものを選択して取り組むオプション課題を用意する試みは、科学に興味関心の強い生徒にとって伸びしろとなる自由度にを与えるとともに、それまでの学習経験の多様性に配慮した個にあわせた指導のひとつのありかたにもなると思います。

授業を受ける側の生徒にとっても、何をどのくらい深く知っているのかを本人の中で整理しながら学ぶことの意義は、大きいと考えています。生徒が、今の自身に足りていない知識が何なのかを自覚することは、「こうなるはず」という思い込みにひっぱられずに思考・判断できるようになることにつながるのではないでしょうか。

(多羅尾沙織)